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 成体の空間的な精巧さや、体内時計のような時間的なリズムなど、生物の特徴の一つは自律的な調和の美しさでしょう。これは細胞のレベルでも同様です。細胞の運動は、細胞というマクロな場の中で様々なミクロな要素が相互作用し成り立っています。我々の研究室では生物物理学的手法で細胞運動の研究を行っています。


現在行っている主な研究
車輪細胞こちらも御覧ください。academist Journal さんに掲載していただいた一般向けの記事です。
 世の中に車輪で動く生物はいません。それは道路の無かった頃の地球表面がデコボコだったから。では、生物の平らな皮膚の上ならどうでしょう?車輪生物はいなくても車輪細胞はいるかも…。私達は魚の表皮のケラトサイトという細胞が、細胞の中で車輪を回して走り回っているのを発見しました。びっくりです。この発見は、これまで生命は車輪を利用しないと信じられてきた先入観を壊すものであり、私たちの生命の概念を広げる発見と言えるでしょう。太古の生命や地球外生命等において車輪をもつものがいるかもしれない、と想像が膨らみます。プレスリリース (2018.7.17)
 ケラトサイトは焼餃子のような格好をしていて、ヒダの部分を前、具の部分を後ろにしてアメーバ運動します。具の部分の真ん中に核があってそれを取り囲むようにストレスファイバという筋肉を細くしたような繊維が取り囲んでいます。ちょうどラグビーボールの縫い目のような配置です。このラグビーボールが自律的に転がって細胞が前に進む推進力を生み出し、さらにフラフラしないようにステアリング機能も担っているのです。
 ケラトサイトはヒトの表皮細胞ケラチノサイトの10倍以上のスピードで突っ走ります。ケラチノサイトに車輪を作らせれば、擦り傷、切り傷があっという間に治ったり、火傷の跡が残らないようになったりするかもしれません。



回転するストレスファイバの車輪



遊走細胞の行き先
 好中球でも神経細胞の成長円錐でも原生生物のアメーバでも遊走細胞は、基質に接着して這い回ります。細胞の右端が右に向かい、左端が左に向かって、細胞が2つにちぎれてしまうようなことはめったにありません。細胞はどうやって全体の運動方向を決める統制をとっているのでしょう?細胞は接着している基質との力学的な相互作用を元に行き先を決めているのでした。細胞が接着している基質を繰返し引っ張ると、細胞は引っ張る方向とは垂直な方向に運動します。
 患者の体を引っ張るだけで免疫細胞やがん細胞の移動方向を制御できる画期的な医療応用につながるかもしれません。

繰り返し伸展装置


横方向に繰返し伸展させている基質の上で縦に進む細胞性粘菌アメーバ



遊走細胞のかたち
 遊走(アメーバ運動)の実体は、細胞前端の伸長と後端の収縮というミクロな変形の連続です。そのため一般に遊走細胞は不定形です。ところが魚類表皮のケラトサイトという細胞は移動中、餃子のような形を維持します。この餃子形は他の細胞も時折示すアメーバ運動のための理想形です。どうやってミクロな変形の連続がマクロな細胞のかたちを維持できるのか、私たちは興味を持っています。
 複雑な成体の体は元は単純な卵細胞から出来上がります。ケラトサイトのかたちづくりのメカニズムを考えていると、生物とはなにかという根本的な問題に行き着くような気がします。



餃子集団として遊走するケラトサイトたち

taken by Okimura C


繊毛群のメタクロナールウェーブ
 繊毛は単細胞生物ゾウリムシから高等動物の気管上皮、卵管等にまで普遍的に存在し水流を発生させています。1本1本が独立に運動しているにも関わらず、隣接した繊毛は一定の位相差を保って屈曲を繰返します。そのため繊毛の屈曲は細胞表層を美しい波として伝播します。この屈曲の波をメタクロナールウェーブとよびます。メタクロナールウェーブ生成・伝達のメカニズムにも私たちは興味を持っています。
 ケラトサイトのかたちづくり同様、波の調和が伝わるメカニズムを考えていると、生物とはなにかという根本的な問題に行き着くような気がします。



ゾウリムシ繊毛群のメタクロナールウェーブ

taken by Narematsu N


研究方法
 光学顕微鏡で生命現象を直接観察することが主な手法です。一般の顕微鏡では難しい撮影を行うため、電気回路や機械工作、プログラミングの技術を使って顕微鏡を日々、改造します。ちょうど自動車マニアが自動車を改造する感覚です。現在は遊走中の細胞の中で細胞骨格が立体的にどのように動くのか、三次元動画撮影に挑んでいます。
 研究論文は“作品”です。そのため私たちは研究内容の独創性や映像の美しさにこだわります。

魚類表皮ケラトサイト



Faculty of Science, Yamaguchi University
© 2008 Iwadate Y